高尾食堂あめとつち

  • 2019年4月14日
  • 2019年5月13日
  • コラム

水の山の麓にて

裏高尾で“春の市”が開かれたのは、まだ肌寒い三月中頃のこと。
小雨の降る中、初めての催しにも関わらず大勢の人が一軒の古民家を囲んだ。
「予想を遥かに超える人の数に、用意していた食事が全く足りず青ざめてしまった」と語るのは、高尾食堂あめとつち店主 小久保 慧(けい)さん。
その日の食事は僅か一時間で完売した。

気持ち腹八分、気分十二分

五分搗き米と味噌汁、六角形の渋い器に飾られた副菜はどれを摘んでも味がある。
物足りなさが残るのは、バランスの良い栄養が五臓六腑に染み渡るからだろうか。
いつしか胃のもたれる感覚を腹一杯と覚えてしまった身体に、あめとつちの一膳はあまりにも優しい。
腹八分のように軽やかで充実した気分を、“満足の上をいく満足”と呼ぶのかもしれない。
季節と共に献立は移り変わり、自ら地元農家を訪ね旬の野菜を収穫する。
生産者の声に耳を傾け、町の様相に目を向けることで地域の輪も自分=お店の世界観も広がっていく。
その姿勢に周囲も反応し、気付けばあの春の市が開催されるまでになった。

暗闇の中から一筋の光

ブルーハーツの曲に救われた若かりし日々、慧さんは気持ちを素直に表現できる人に憧れていた。
塞ぎ込みがちだった少女は小学六年時での転校を機に、少しずつ前を向き始める。
転校先の学校は一学年一クラスと小さく、その環境では個人の主張が求められた。
やがて反抗期が訪れ、その後の学生生活はアルバイトに明け暮れる。
居酒屋とカフェで働く内に一筋の光が見え、大学卒業後はフェアトレードの商品を扱うカフェに就職。

そして世界はひっくり返る

“いいもの”という定義が筆者にはわからない。
わからずとも前述の“あまりにも優しい”という感覚は、頭より先に身体が反応してしまうのではないか。
食べることが何より好きなのに、食べることで訴える身体の不調に疑問を抱きながら過ごしてきた慧さんは、
そのカフェが作る純粋な料理を口にして世界がひっくり返ったという。
同時にフェアトレードやオーガニックといった意味を知ったことで、これまで鵜呑みにしてきた公の情報が必ずしも真実でないことを悟る。
震災を機に退社するも、二年半の凝縮された経験は今のあめとつちの土台となり、五感を通して万物を見る眼は生き続けているのだろう。

導かれるままに

結婚、出産を経て少女は大人になり母となった。導かれるように。
髪も染めれば、ピアスも開けた。雑誌も読み耽った。
子どもの頃からの夢だったカフェという仕事に昼も夜もなく働いた。導かれるままに。
外の世界へ飛び出して、再び地元の土を踏んだ。導かれるように。
導かれるように、導かれるままに、自然と心から涙が湧いて出たという。

あめとつちの由来

夜中、山の呼吸によってキメの細かいひんやりとした空気が町中の余韻を一層していく感覚。
筆者が地元に戻ろうと決めた理由と、それは似ていた。
調べてみると高尾山に降った雨が大地に染み込んで湧き水になり、沢を下ってやってくるのだという。
あめとつちという名前の由来はその湧き水からきている。
当初は自分で汲みにいくつもりだったそうだが、水質調査が必要となり断念。
すると近所のお豆腐屋が店に引かれた湧き水を提供してくれることとなり、慧さんが大切とする“地域との関係性”によって実を結んだ。

本来の心

最後に一つ、野暮な質問と知りつつ訊ねてみた。

「あめとつちの料理にはどのような想いが込められているのですか?」

「例えばここへ来て、ご飯を食べてくれた人が、“子どもの頃の気持ち”に戻れたらいいなと思います。
私の幼少期は暗かったですが(笑)もっと遡って二、三歳頃のきっと毎日ワクワク楽しかった気持ち、それが本来の心だと思うんです。
心の声が聞けるようになったり、周りに何も装飾のない自分になれたら幸せだなと思うし私もそうなりたい。
これは言葉にするとすごい安っぽく聞こえてしまうのであまり言わないようにしているんですけどね」

この場で、料理についてのあれこれを極力伏せたのは、あめとつちを訪れ実際に口にした時に腑に落ちる何かがきっとあると思ったからだ。
数多なグルメとは全く別の、あめとつちの一膳がそこには在る。
ダイレクトに身体に入り五臓六腑に染み渡ることから、腑に落ちるという言葉は生まれた。
十五年かけて濾過された湧き水のように、純粋な食事を通して無垢な心を呼び戻してほしい。
小柄な女性店主が身を投じて、乾いた身体に優しい雨を降らす。

高尾食堂 あめとつち

高尾食堂 あめとつち
住所:八王子市裏高尾町1062
駐車場あり
営業日:木・金のみ (不定休あり)
営業時間:11:00~15:00 (LO14:00)
TEL:090-9255-6220 (満席の場合がありますので、ご予約をおすすめします)
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