本物より本物らしい、指先サイズのごちそう。八王子のミニチュア作家・はらぺこ文鳥【はちんちゅ vol.5】
八王子をルーツに活躍する人に迫る企画『はちんちゅ(八王子人)』。第5回は、指先サイズの“ごちそう”を生み出すミニチュア作家・はらぺこ文鳥さんです。本物より本物らしいと評される作品は、なぜ生まれたのか。益子焼の里で育った原体験、そして人生の転機を経て辿り着いた創作への覚悟。八王子という街で広がる現在地を語ります。
はらぺこ文鳥
栃木県益子町出身。八王子在住のミニチュアフード作家。社交不安障害(SAD)を経験し、引きこもり生活を経て創作の道へ。“おいしそう”を極小サイズで表現する作品を発表している。テレビ東京「所さんの学校では教えてくれないそこんトコロ!」などメディア出演歴あり。
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原点は「泥団子」と「ミニチュア粘土の本」
――本日はよろしくお願いします。まずははらぺこ文鳥さんのルーツについてお伺いしたいのですが、ご出身は栃木県の益子町だそうですね。
はい、益子焼で有名な益子町です。ものづくりのルーツを辿ると、幼稚園時代の「泥団子作り」かもしれません。いつも一人でしゃがんで、泥をこねてツヤツヤの団子を作るのにハマっていました。手で何かをこねるのが、その頃から好きだったんだと思います。
――学生時代は美術部に所属されていたそうですね。
そうですね。中学校の中に本格的な「登り窯」があって、そこで活動していました。さすが陶芸の町ですよね。2kgくらいの粘土をドンと渡されて「自由に作れ」って(笑)
手びねりでオブジェなどを作っていました。
――絵を描いたりはしなかったんですか?
描いていました。実は小さい頃、漫画家やイラストレーターになりたかったんです。だからアニメチックなイラストなんかもよく描いていましたね。
――そこからなぜ「ミニチュア」へ? 出会いはいつだったんでしょうか。
出会いはもっと遡って、小学3、4年生の時です。夏休みの工作で、親に頼んで「ミニチュアフードの作り方」の本を買ってもらったんです。今も活躍されている「ねんドル」の岡田ひとみさんの本です。それを見様見真似で作ったのがすごく楽しくて。それが原点ですね。
ただ、高校に入ってからは進学校だったこともあり勉強一辺倒になってしまって、美術や制作からは一度離れてしまいました。
――「ミニチュア作家」として活動を始めるに至ったきっかけは何だったのでしょうか?
実は、大学時代に持病の「社会不安障害」が悪化してしまったんです。人とのコミュニケーションが怖くて、授業にも出られなくなり、ほぼ引きこもり状態になってしまいました。当然、就職活動の面接も受けられなくて。「どうやって生きていこう、最悪死ぬしかないのか」と追い詰められていました。
そんな時、部屋から出られなくてもできることとして「ミニチュアフード作り」を思い出したんです。ただ、その頃は趣味の延長というか、たまに作っては楽しむ程度でした。それでも「とにかく何かしていなきゃ」という一心で、改めて本格的に作品作りに向き合うようになりました。
――まさに「生きるための手段」だったんですね。作家として「これでいこう」と腹をくくった瞬間はありましたか?
最初は月に1〜2個売れる程度で、ライターの仕事などで食いつないでいました。でも20代後半になった時、いよいよ先が見えなくなって。「もう失うものはない、これ一本でやってみよう」と覚悟を決めたんです。それまでネットでの誹謗中傷などが怖くて避けていたTwitter(現X)も、「やるしかない」と思って始めました。すると、想像以上に温かい反響をいただいて。そこから少しずつ、作家としての道が拓けていきました。
ちょっと豪華なタッパー弁当はチャームになりました。
— はらぺこ文鳥@ミニチュアフード (@hara_hetta0725) January 22, 2026
今週末に色々まとめてcreemaに出品でき…そうな気がする…じゃなくて出品します!!!🐦 pic.twitter.com/DiUdwZUaFv
3段階のツヤで表現する“シズル感”
――はらぺこ文鳥さんの作品は、写真で見ると本物と見間違えるほどのリアリティがあります。特にシズル感(ツヤ感)が印象的です。
私の中でツヤは3段階くらいあるんです。例えば、ホルモンや生牡蠣、イクラなどは光沢MAXの「ピカピカ」。天ぷらの衣や脂身は「半透明」。煮物の汁気は具材に染み込んだような「しっとり感」。この調整が命です。
――制作工程で一番難しいと感じる料理はありますか?
「お肉」が一番難しいんです。お肉って、言ってしまえばただの茶色い塊なんですよ。下手をすると本当にただの茶色い粘土になってしまう。「中はレアで赤く透けていて、外側はこんがり焼けている」というのを表現するために、ベースの色から計算して、何層にも色を塗り重ねていきます。
――街中でおいしそうなものを見ると、やはり制作のことが頭に浮かびますか?
職業病ですね(笑)
おいしそうな料理を見ると、「食べたい」よりも先に「これを粘土でどうやって作ろう?」「どの素材を使えばあの質感が再現できるかな?」と考えてしまいます。その後で「あ、お腹すいたな」って(笑)
益子のDNAが息づく、極小の陶芸
――作品を拝見して驚いたのですが、器もご自身で作られているんですね。
はい。やっぱり益子出身なので、器へのこだわりは捨てきれなくて。樹脂やプラスチックではなく、本物の陶芸と同じように粘土を使い、「ろくろ」で成形して焼いています。
――指先サイズの徳利やお猪口まで!
こんなに小さくても実際に電動ろくろを回してお茶碗などを作っています。小さいけれど、ちゃんと器の底にある「高台(こうだい)」も削り出しているんです。裏返さないと見えない部分ですが、そこにあるのとないのとでは、佇まいが全然違う。「あったほうが絶対いい」というこだわりですね。
八王子は「人が温かい」創作の街
――現在は八王子にお住まいですが、この街を選んだ理由は?
以前は調布に住んでいたのですが、アトリエとして使える少し広めの部屋を探していて八王子に辿り着きました。実際に住んでみて驚いたのは、人の温かさです。昔ながらのお肉屋さんやお魚屋さん、スーパーやドンキの店員さんまで、みんな優しいんですよ(笑)
お祭りやイベントも多くて、街全体におおらかな空気を感じます。創作活動をする場所として、とても居心地が良いですね。
――八王子で気に入っている場所やお店はありますか?
グルメだと、「関根精肉店」さん。実は私、ここのホルモンに感動して、ホルモン嫌いを克服したんです!その時のあまりのおいしさにインスピレーションを受けて、勢いでホルモンのミニチュア作品を作ってしまったくらいです(笑)
おいしくて感動すると、「これをどうやって粘土で表現しよう?」ってスイッチが入っちゃうんですよね。出来上がった作品をお店の方にお渡ししたら、とても喜んでくださって。そういう温かい交流があるのも八王子の好きなところです。

店員さんが作ってくれる焼きたて“大とろホルモン”が名物!八王子駅北口『関根精肉店』
公開日: 2024.01.26
店員さんがお席で作ってくれる『鉄板焼き大とろホルモン』が超おススメ!ほかにも新鮮なお肉をつかった魅力的なメニューがたくさんの『関根精肉店』は何度でも行きたくなるお店です。…
これからの目標
――今後の目標や挑戦してみたいことを教えてください。
ずっと夢見ているのは、本の出版です。私の原点は、小学生の頃に読んだミニチュア粘土の本。いつか自分も、作り方を教える本を出したいです。
あとは、ワークショップもいつかやってみたいんです。実は八王子近辺でレンタルスペースを探したりもしていて。今はまだ「人が来なかったらどうしよう」と勇気が出ないんですけど(笑)
いつかこの街で、皆さんと一緒に作る場を持てたらいいなと思っています。
――それは楽しみです!作ってみたい作品のテーマなどはありますか?
作品としては、「温泉旅館の御膳」を完全に再現してみたいですね。天ぷらやお寿司など、好きなものを並べるのも楽しいですが、実在する旅館の御膳をそのまま再現して、見た人が「そこに行った気分」になれるような、そんな作品を作ってみたいです。
――最後に、読者の方に向けて、作品の見どころを教えてください。
ぜひ「色」と「ツヤ」のこだわりを見てほしいです。例えば、焼いたお肉の脂身と赤身の境目や、天ぷらの衣の透け感。そういった細かい部分に、私の「おいしそう」への執念が詰まっています。そこを楽しんでもらえたら嬉しいですね。
「生きるために作るしかなかった」という言葉の重みと、楽しそうに作品を語る笑顔。そのギャップが忘れられません。指先から生まれる世界は、小さいのにどこまでも温かく、力強いものでした。
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